専門家の声

専門家の声 前田さん

Profile

前田 邦男さん

東京都木造住宅耐震診断登録事務所協議会 代表幹事
(有)前田総合建築設計 代表取締役 1級建築士

阪神大震災クラスの地震が東京で起きたらどのような状況になりますか?

阪神大震災では約25万棟の建物が全半壊となり、そのことでの死者は5300名を超えました。もし東京で同クラスの地震が発生すれば、この数字をはるかに上回る被害が考えられます。なぜなら東京は関西地方よりも不燃化していない住宅が密集しているからです。不燃化していない建物が地震で倒壊すれば、火事が発生し周辺は焼け野原になってしまいます。 さらに東京は海や川沿いを中心として地盤が弱いところも不安材料としてあげられます。地震時にこのような地域は液状化しやすく、建物の不同沈下が多発するはずです。不同沈下とは建物の一部だけ地面に沈む現象です。1階上の一部だけ2階が乗っているような重量バランスの悪い家で多く見られます。また地盤の強い地域でも安心は出来ません。傾斜地に盛土をした造成地などは、周辺に対して弱い地盤になります。

そのような状況を軽減するために住宅はどうあるべきですか?

写真:建物

地震による被害者は高齢者に集中します。その方たちの多くは昭和56年以前のいわゆる旧耐震基準の、地震に弱い建物に住んでいます。またこの建物は、築後30年以上も経っているので劣化も進んでおり、さらに耐震性能を低下させています。そのような建物の倒壊被害を減らすためには、しっかりとした技術力を持ち、信頼できる耐震診断事務所※の診断を受け、改修工事をすることが必要です。この1・2年の行政による補助金制度はかなり充実しています。ぜひこの機会に改修工事をお勧めします。

※東京都には適切に耐震診断および補強設計を実地できる事務所として「東京都木造住宅耐震診断登録事務所」制度があります。

昭和56年5月以前の住宅はどのようなところが弱く、その部分は大地震時にどうなりますか?

56年5月以前の木造建築の弱い部分は以下の4点になります。

  1. 耐震壁が少なく、耐震壁があっても強度が不足しているため大地震時に倒壊の恐れがある
  2. 耐震壁の配置バランスが悪く、大地震時にねじれ破壊を起こす可能性が高い
  3. 基礎の素材が玉石やブロックであったり、コンクリートであっても鉄筋が入っていないことが多く、崩れやすい
  4. 柱や土台と梁などの接合部に金物を使用していないため強度が弱い。そのため大地震時には柱抜けが起こり一気に倒壊する恐れがある

1.2は素人でも「この家は壁が少ない」「東側だけ壁が多い」という感じでなんとなく分かるものです。また3.の鉄筋は昭和56年以前の建物はほとんど入っていません。法律で義務づけられていなかったからです。 マンションの弱い部分は構造型式が大きく変化するところです。たとえば一階が駐車場になったピロティや下部が鉄骨鉄筋コンクリート造で上部が鉄筋コンクリート造の建物です。このようなマンションは構造が変化する部分で崩壊する危険性があります。

耐震改修工事後の具体的な効果はどのようなものですか?

写真:屋内

耐震改修は基本的に建物の剛性を高める手法なので、工事後は地震時の揺れが少なく感じるかもしれません。ですが、さらに明確なメリットは以下の4点になります。

  1. 大地震時の倒壊防止で「大切な命を守れる」
  2. 倒壊しないことで避難路や救援路を確保できる
  3. 倒壊しないことで火災の発生源にならない
  4. 耐震化することで建物の寿命が延び、建て替えによる出費や産廃を減らし、環境保護にも貢献する

さらに付帯的効果として、補強した部分や部屋はリフォームしたのと同様にキレイになります。また「長年捨てられずにいた不用品の山が整理できた」という喜びの声も多く聞かれます。

まだ耐震改修工事をしていない方へ一言

多くの皆様が「改修工事するときは引っ越しが必要なのでは?」「荷物の移動はどうするの?」と心配されます。しかし工事はそのまま家に住みながらできますし、荷物の移動も貴重品さえ出していただければ、施工業者がやりますので大丈夫です。木造住宅の場合、工事期間も1カ月から長くても2カ月で大抵は終了します。

 また、「私の家は古すぎるから建て替えるしかないですよね?」という相談も多くされます。これは診断してみなければ断言できませんが、ほとんどの住宅で改修工事は有益です。私の経験では築80年近い家を耐震改修したこともあります。とにかく信頼できる耐震診断事務所に一度相談してみましょう。